FC2ブログ

『虐殺教育』

   たっくんはオジイの部屋に行ってさっきの戦記を探して見てみようと思った。
   (でも、オジイはとっくに、机の中にしまって鍵をかけているだろうなぁ…)
   そう思ってガッカリした。でも万が一、ということもある。たっくんは万が一の可能性にかけてオジイの部屋に行くことにした。
   立ち上がると、オバアはギロッと睨んで、しかし声は優しい声で、こう言った。
   「たっくん、どこ行く?」
   「トイレに行ってくる」
   「ふうん…」
   たっくんは、障子を開けた。
   目の前は広い庭。右に行くと、トイレ。左に行くと、オジイの部屋がある。
   たっくんは、後ろ手に障子を閉めると、足音を消して左を行く。
   「たっくん、どこ行く?」
   ハッとして振り返る。すぐ後ろにピッタリとオバアが張り付いていた。
   「え? いや…ちょっと」
   「トイレは? トイレはあっちどぅ」とオバアはトイレを指差す。
   「うん、そうだね。トイレ行ってくるね」
   「……」
   たっくんは仕方なくトイレに入った。…少しして、ゆっくりドアを開けた。すると、障子がカタッと開く音がした。トイレのドアを閉めた。カタッと障子が閉まった。
   (…ダメだ。完璧にオバアにロックオンされている。オバアよ…)
   たっくんは、ふう、っと息を吐いた。
   「…たっくん。おい、たっくん」
   トイレの窓の向こうから声がする。
   隣の家のお兄さんが、家の中からたっくんを呼んでいた。
   …隣の家は先述した通り元は困窮者のおじいさんが住んでいた。たっくんはこのおじいさんに同情して食料を恵んだ。おじいさんの死後、東京から息子(このお兄さん)が帰って来て家に住むことになった。お兄さんはたっくんの美談を聴いて感動し、それ以来、たっくんとは大の仲良しだった。
   「どうしたの? マサシさん?」
   「大変なことがあったんだよ」
   「とうとうUFOが見つかったの?」
   「いや、そうじゃなくて…」
   マサシさんはUFOオタクだ。「UFOを見つける機械さ」とか言って、色々な機械を自作して、家の敷地のいたる所に置いていた。この前なんかは「テレビ局から音声さんのマイクを貰って来たぞ」と言って、そのマイクを5倍も大きく改造して、宇宙の音を拾っていた。しかし実際に聴けたのはただの町の喧騒だったけれど…。それでも町の人たちの声がクリアに入っていて、子供たちからは大変な好評を博していた。
   「君のおじいさんだけどさ。さっきトイレの中でスマホで話していたんだ。なんだか怪しかったからマイクで音を拾って聴いたんだけど……」
   マサシさんはオジイと語り部の光晴の会話を洗いざらい話して聞かせた。
   たっくんは怒った。
   「オジイよ…そんな汚いことをするなんて。嘘もついて…」
   「気を付けなよ。もうすぐその語り部のおじいさんがやって来るぞ。籠絡されないようにな」
   「ろうらく?」
   「ダマされて、取り込まれないようにって意味さ」
   「うん。わかってるよ。俺は簡単にダマされるような人間じゃないよ」
   たっくんは礼を言ってトイレを出た。
   マサシさんは不安な顔をした。
   マサシさんはたっくんの正義感を認めていた。でも、たっくんの正義感は、あふれるような過剰な優しさによって支えられていた。人に優しくできる人間は、悪い人間にその優しい部分を上手く突かれて、籠絡される危険性がある。だからたっくんの反骨精神は諸刃の剣でもある。
   (がんばれたっくん)
   マサシさんは火打ち石をカチカチとやって、たっくんの応援をしようと思った。だけど手頃な石がなかったので落っこちていた鉄パイプでガンガンガン! と塀を乱暴に叩いた。野良猫がビックリして逃げて行った。
   「これでよし」
   マサシさんは良い人だけど変人なのだ。
   自我の強さや偏屈さがあったからこそ、マサシさんは自己の正義感を揺るぎなく保つことができたのである。
   「たっくんにも俺くらいの図々しさがあればなぁ…」
   マサシさんはそうつぶやきながら家に入り、椅子に座り、パソコンに向かった。そして、
   『×××島  虐殺』
   と検索した。
スポンサーサイト
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村にほんブログ村 小説ブログ 純文学小説へ
にほんブログ村

テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

日めくり・ねこ時計
プロフィール
ブログタイトルは夏目漱石の「黙々として牛の如くせよ」から。

野間

Author:野間

最新記事
最新コメント
カテゴリ
リンク
FC2カウンター
オンラインカウンター
現在の閲覧者数:
検索フォーム
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Amazon.co.jpアソシエイト
フリーエリア
読書記録
野間の今読んでる本
管理人の電子書籍
お小遣い稼ぎ
ネコ図鑑
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる