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小説

小説七つ。




   『オウムと男の子』

   南国・沖縄と言うと、温かい人たちがいて、おたがい支え合って平和に幸せに暮らしていると皆さんは思うでしょう。でもそれはちがいます。沖縄の人たちは皆とても冷たくて、自分のことしか考えておらず、不幸な生活をしているのです。


   その証拠を見せてあげましょう。いま、私は沖縄の夜景を皆さんにお見せしようと思います。海もサトウキビ畑もない、よくあるゴミゴミとした地方都市の夜景です。よく目をこらして見て下さい。アパートが見えるでしょう。五階の真ん中のベランダを見ると、裸で裸足の男の子が座っているはずです。南国・沖縄でも冬になると寒くなります。十二月ともなると、なおさらです。でもこの男の子はもう何日も家に入れてもらえないのです。叩かれて、全身にアザとキズを付けて、ご飯ももらえずに。もう泣く気力も失って、グッタリと体育座りをして、ぼーっと遠くのほうにある、コンビニの青く光る看板を見つめています。
   たまに下を人が歩く音がすると、男の子は立ち上がって、じっとそちらを見つめたり、観葉植物の鉢の中の小石や土を投げ落としたりします。
   (助けて。ぼくに気づいて)と念じながら。
   でも誰も助けてはくれません。皆、見て見ぬふりをしているのです。
   (だれもぼくを見てくれない。ううん。だぶん、ぼくの姿が見えないんだ。きっとぼくはもう死んじゃったのかもしれない。きっとぼくは幽霊なんだ。だから、だれからもぼくが見えないんだ)
   空腹のお腹がすごい音を立てました。男の子は小石や葉っぱをしゃぶって、飢えをごまかしました。
   ダンゴムシのように体をギュッと丸めることで、寒さをガマンします。
   とても辛いですが、男の子は幸せそうに笑っていました。だって、もう幽霊になったのですから、この世のいろいろな辛いことからもうすぐサヨナラできるのですから。
   (あとはあの世に行くだけ。神様のお迎えを待つだけ。…あの世に行ったら、温かいラーメンをいっぱい食べたいなぁ。ぼくの好きな【緑のたぬき】が食べたいなぁ…)


   このように虐げられているのは、男の子だけではありませんでした。沖縄の人たちは動物も虐げていたのです。   
   男の子のアパートから、そう離れていないマンションで、オウムが男の人からいじめられていました。
   キリ、彫刻刀、カッターナイフなどを鳥カゴのスキマに挿し入れて、オウムをチクチクと陰湿に傷つけるのです。
   この男の人は暴力を振るうので、奥さんに逃げられてしまったので、その腹いせにオウムをいじめているのでした。
   男の人はついに「うわーっ」と発狂して、金属バットを手にすると、思い切りカゴを「ぐわーん!」と殴りました。オウムはびっくりしてカゴの中でバサバサ暴れ、大声でこう言いました。
   『この野郎! 八つ当たりするな! おれは何もしてないじゃないか! どうしてこんなことをするんだ! バカヤロー!』
   「うるさい。オウムのくせにだまれ!」
   もう一度「ぐわーん!」と殴られて、カゴが落ちて壊れました。
   オウムはカゴから出ると、開いていた窓から外へと飛んで逃げて行きました。
   『なんて日だ! なんて日だ!』
   オウムは夜空を飛びながら、どこか安全な場所はないかと眼下を見渡しました。
   町はクリスマスムード一色で、みんなは浮かれていました。今日はクリスマスイブなのです。
   『ケッ! 気楽なもんだぜ! …おや?』
   オウムは例の男の子を見つけました。そしてバサバサと降りていって、ベランダの手すりに止まりました。
   『ハァイ! 元気?』
   男の子はびっくりしていましたが、すぐに笑ってこういいました。


   「神様のお使いなんだね。ぼくを迎えに来てくれたんだね」
   男の子はフラフラしながらも立ち上がって、オウムのそばに寄っていきました。
   「早くぼくをあの世に連れていっておくれよ」
   オウムは最初何事かと思いましたが、傷付いた男の子の様子を見て、ああ、この子は虐げられて、精神的に追い詰められているんだな…と察して、男の子にこういいました。
   『そうだよ。迎えにきたんだよ』
   「やっぱり! さあ、早く早く、ぼくをあの世に連れていってちょうだい!」
   『本当にあの世にいってもいいの? 今の世の中に未練はない?」
   「みれん?」
   『思い残すことだよ』
   「ないよ」
   『本当? あの世にいってから、やっぱりいかなければよかった、この世に生きていればよかったって、あとで後悔しない自信はあるかい?』
   「あるよ。あるに決まってるよ」
   そのとき、大きな声がして、男の子はビクッと震えました。部屋の中から女の人の声がします。だけどその声は、男の子を叱る声ではなくて、喘ぎ声でした。男の子はほっとしました。
   「ほらね。こんな世の中だもん。思い残すことなんてないよ」
   『あれがなんだか分かるのかい?』
   「セックスしてるんでしょ?」
   『…』
   「ぼくはセックスを見るように母さんとあの男に命令されたことがあるよ。あの二人ときたら五時間でも六時間でも平気でやるんだから疲れちゃうよ。ぼくは正座して見るように命令されたんだけど、足がしびれて、足をくずしたことがあるんだ。そしたら殴られて、罰としてコンドームの中の精子を無理やり飲まされたよ」
   『…』
   「こんな世の中、思い残すことなんてないよ。さあ、早く連れていってちょうだい」
   『ちょっと待ってて。神様はいま眠っている時間だから、ちょっと起こしてくるよ。神様も準備をしないといけないからね。神様の準備がととのったら、迎えに来るからね』
   「わかった。お願いね。ねぇ、あの世には【緑のたぬき】はあるのかな? ぼくの大好物なんだ」
   『うん、あるよ。それじゃ、いってくるね』
   オウムは飛んでいきました。
   男の子は目を輝かせて飛んでいくオウムを見つめていました。
   「やっと死ねるんだ。とっても素敵なクリスマスプレゼントだ。ありがとう神様」


   オウムはもちろん、神様の使いではありませんし、男の子をあの世に連れていってやることもできません。
   神様を起こしてくるというのはウソです。オウムはそうやってウソをついて、男の子に元気を出してもらおうとしたのです。そしてウソをついている間に食糧をかき集めて、男の子のところ持っていって、もっともっと元気を出してもらって、あの世にいきたいという気持ちを忘れてもらおうと思ったのです。
   オウムは町中を飛んで、食糧を探しました。でも都合よく落っこちてはいませんでした。そこでオウムは自動販売機の下を探って、小銭を拾い集めることにしました。猫とかカラスがやってきて、オウムは何度か襲われました。それに飼い主に傷付けられた体がヒリヒリと痛みました。だけど、男の子のためだと思って、がんばってかき集めました。自分も虐げられていたので男の子のことが人ごとだとは思えなかったのです。
   ようやく五百円をかき集めたオウムはスーパーに入っていこうとしました。でも警備員のおじさんがシッシッと追い払うので、入ることはできませんでした。
   そこで商店街の中にあるお婆さんが経営している小さなお店にいきました。
   『【緑のたぬき】ちょうだい。それとサンドイッチとオニギリとチロルチョコ』
   お婆さんは、オウムを見ました。だけどまさかオウムが本当に商品を買うとは思いませんでした。ただのよく喋る変わったオウムだと思いました。
   『お婆さん、お金ならあるよ。ほら、このゴミ箱で拾ったポーチの中に、町中を飛んでかき集めた五百円があるんだよぉ』
   オウムがポーチをひっくり返して五百円を見せても、お婆さんはテレビを見て、全く相手にしてくれません。
   オウムはしかたないのでお金をしまって、次の店にいこうと思って飛んでいきました。すると、バシィッ! というすごい音がして、オウムは墜落してしまいました。
   誰かが思い切り投げた野球のボールがオウムに当たったのです。
   ヒクヒクと体を痙攣させるオウムのそばに、怖い顔をした中年の男が立ち、グッと威圧的に見下ろしてきます。
   「五百円はおれのものだ」
   男はしゃがむとオウムの落としたポーチを拾いました。
   『ドロボウ! ドロボウ! 誰かぁ! 誰かぁ!』
   必死に叫んでも、誰も助けてくれません。
   「うわぁ、見て! このお店のクリスマスケーキ美味しそう!」などといって、完全にオウムと男のことなどに関心がなさそうでした。
   「悪いな」男は言いました。「もう何日も何も食べていないんだ」
   去っていく男の姿……ボロボロに汚れた服を着けて、髪もボサボサ、ヒゲもボウボウでした。
   (……ああ)と、オウムはヒクヒク震えながら思いました。(この世には、虐げられた不幸な人が、なんて多いのだろう。そして幸福そうに見える人たちも心は貧しくて本当はとても不幸なんだ。誰もかれもが不幸で不幸で、不幸でたまらないんだ。ああ、せめて神様、あの男の子のことだけは助けてやって下さい!…)
   オウムはしばらくヒクヒクしていましたが、やがてヒクヒクも完全に止まり、冷たくなってしまいました。


   夜が開け始め、太陽が少しずつ昇ってきます。
   男の子は絶望に襲われていました。
   (オウムはこなかった。ぼくは神様にも嫌われてしまったんだ)
   男の子は寝そべって、ため息をつき、目を閉じました。そしてうっすら微笑みました。
   (ぼくは世界から嫌われてしまった。…ふん。それでいいさ。ぼくも世界が嫌いだ。こんな世界ほろんでしまえばいいんだ)
   男の子は、昇りきった太陽が、世界の上に落ちかかって、ズシーンッ!! と建物や人々を押し潰し、なにもかもをこなごなのめちゃくちゃに破壊する様を想像しました。
   (太陽…ぼくのかわりに、世界に復讐をしておくれ…)
   けれど、昇りきった太陽は、落ちてくることはありませんでした。それどころか太陽は世界を優しい温かな日差しで包み込むのでした。
   こうして世界中がすっかり明るくなったころ、男の子はすっかり冷たくなりました。そこへ何者かが飛んできました。それはオウムではなく蝿でした。蝿は男の子の瞼の上に止まりその肉をかじりました。

(終)



   『ジャパニーズ・スパイダーマン』

   男はなぜか手首から糸が出るようになった。
   「動画で小遣い稼ぎをしよう」
   男はユーチューバーになって、手首から糸を出す動画をアップした。
   【せっかくだからアメリカのスパイダーマンみたいに人助けしてヒーローになれば?】
   というコメントが来た。
   【いや、一文にもならないことはやりたくないので。たとえ目の前で人が死のうとも】
   とコメントを返したら、
   【クズ過ぎワロタww】
   【日本の恥が死ねや】
   などと返って来た。
   〈日本のスパイダーマンさん、守銭奴だったwww〉とネットでニュースになって有名になった。
   世界中の研究機関から「検体させてくれ」と依頼が来たので、男は「一回の検体でン千万円よこせ」と法外な報酬を吹っかけた。
   こうして男は〈スパイダーマン〉というよりも〈エコノミックアニマルマン〉というアダ名で世界に名を馳せた。



   『タイムスリップ赤報隊』

   赤報隊は時空の穴に落っこちて2018年にやって来た。
   「ここは未来か? 恐らく反日左翼分子が増長しているに違いない。成敗してくれるわ」
   赤報隊は鉄砲を揃えた。そして襲撃対象を探すつもりで、新聞・テレビ・ネットをチェックしたが、赤報隊はこう言った。
   「なんだ。どのメディアもずいぶん丸くなって、政権の太鼓持ちをするようになったではないか。朝日新聞もかなり右翼的になっとる。これなら日本は安泰だ」
   赤報隊は襲撃計画を中止した。



   『スーパーネトウヨマン』

   目覚めると男はスーパーマンなみの怪力と飛行能力を手に入れていた。
   「この能力で悪党征伐をしよう。朝鮮総連のビルを根こそぎ引っこ抜いて宇宙空間に捨ててやろう。沖縄辺野古のプロ市民どもをボコボコにしてやろう」
   男は窓を開けて飛んで行った。
   しかし、一気に倦怠感に包まれた。
   「…いざ、やろうとすると、すっげぇダルくなった。よく考えると、おれはネットに在日や沖縄県人の悪口を書いてストレス発散するのが好きなだけなんだ。本当に日本のことを思って在日や沖縄県人を嫌っているという訳ではないんだ。…あーあ。面倒だし、疲れてるし、バイトの時間まで寝ようかな…」
   男は帰って寝た。



   『元々の手癖』

   度重なる不祥事…汚名返上すべく大阪府警は奇策に打って出た。
   ある刑事をロボコップに改造したのだ。
   ロボコップはその優れた人工知能を駆使し捜査費などを横領した。



   『殺人鬼の憂うつ』

   《3人が惨殺された猟奇事件。未だ解決に至らず。沖縄県警には焦りの色も》
   パソコンがおれの犯した事件の見出しを映し出す。
   おれは快楽殺人犯だった。
   ほくそ笑みながら、さらにネット検索する。すると…
   【沖縄県民はやっぱ野蛮だよな】
   【殺人は奴らの専売特許】
   【ほんまイカれた土人やで。もっかい艦砲射撃して民族根絶やしにしたれや】
   おれは怒った。
   なぜだ! それを言うなら、基地をずっと押し付けてるおまえらは悪魔じゃないか?
   それにおまえらは戦争のとき中国でなにをした? 朝鮮とか東南アジアとかでなにをした? 鬼でさえ顔をしかめるほどのヒドイことをやったじゃないか?
   「あーあ…」
   おれは憂うつになってパソコンの画面を消した。
   寝転んだ。
   なんだかクサクサする。…そうだ。今度はナイチャーを殺すというのはどうだろう? きっとスッキリするぞ。
   …と考えたが、やっぱりやめることにした。
   ナイチャーはたぶん、連続殺人鬼のおれよりも野蛮で残酷だ。昔、小泉純一郎が総理だったころ、北朝鮮の拉致問題がテレビで流れるようになって、そのせいで、在日の女の子が民族服を切り裂かれたことがあった。
   ナイチャーは狂ってる。奴らは怒るとなにをするかわからない…。
   おれが奴らを殺したら、奴らは報復と言って、本土に暮らす沖縄の子供たちを皆殺しにするかもしれない。
   くわばら、くわばら…
   やっぱり、絶対にナイチャーを殺すのはやめよう。
   そして、おれも殺人から足を洗おう。
   殺人をやっていたら心が汚れてナイチャーと同じに成り下がってしまうような気がするから。

   おれは大切に持っていた凶器のナイフを捨てた。



   『作家の試練』

   比嘉という沖縄の作家が芥川賞候補になって、残念ながら落選はしたものの、沖縄県の誉れとして大変な注目を浴びた。その影響で彼のブログには沖縄中のアマチュア作家から様々なコメントが寄せられた。その中でも〈アルカンジェリ〉と名乗る人物が比嘉を悩ませた…

   ※   ※   ※
   
   【謹啓 
     比嘉善仁様  暑い折いかがお過ごしでしょうか? お体をお壊しになどなされていないでしょうか? 心配です
   そしてこの度は結局落選残念でしたがしかし結局健気なご奮闘ぶり大変感心いたしました
     さてつきましては私めの作品をお読みになってご乾燥など下さらないでしょうか私は沖縄生まれ沖縄育ちの18歳なので可愛い後輩を助け育てると思ってぜひぜひご完走下さいませ!面倒かもですが長い目で見るとそれが結局沖縄の文学界を引き上げて結局ナイチャーの奴らをギャフンと言わせることにもつながるとも思うますし結局沖縄のためにもいろいろとなると思うますのです
                                                                                 敬具

         那覇市新都心中心部に聳え立つ高層マンション住み(下の階は故筑紫哲也氏の別荘だった)
         士族の家計で親が某有名企業の重役
         大学の成績は常にトップクラス
         新宿に旅行に行ってスカウトされたことあり
         士族の血のせいか歩き方や身振り手振りが上品だといつも言われる

                                アルカンジェリ・ジェリーノウィッチ(ペンネーム)】

   小説投稿サイトのURLが添付されてあったが、作品画面ではなくプロフィール画面のURLなので、どの作品の感想を送れば良いのかわからなかった。「小説の感想をくれ」という要望は多く寄せられていて、比嘉はできるだけ応えるようにしていたが、さすがにこれでは要領を得ないから【どの作品を読めばいいですか?】とコメントを書いた。すると5分後にすぐ【???結局全部ですが】と来た。青年の作品は500作以上あった。【500作全部ですか?】【???結局そうですが】【さすがに500作は時間的に無理なので1作だけ指定してもらっていいですか?】するとアルカンジェリは怒った。
   【結局後輩が可愛くないということれすか?結局私めが新都心の高級マンションに済んでいたあ結局そんなに妬ましいわけれすね?物書き同市のプライドをかけて那覇地裁で争いまうか?】
   【貴方を傷付けてしまったのなら申し訳ございません。ですが私も働きながら小説を描いているので自由な時間がほとんどなく、眠る時間も削って生活しているほどでして。それに貴方以外の方からも小説の感想や添削の依頼が沢山来ているので、できれば1人につき1作なら助かるのです。何卒ご理解下さい】
   【ご理解不要!那覇地裁で会おう!】
   コメントは来なくなった。数日経って地元の出版社から電話が来た。比嘉の顔写真がプリントされた紙に住所やら誹謗中傷やらが書き込まれた紙が出版社に届けられたうえに、出版社の周辺にも無数にばら撒かれたという。〈乾燥を送らないと自宅アパートに爆弾を贈るぞ震えて舞ってろと伝えちおけ〉というファックスも来たそうだ。
   警察に訴えるべきだと言われたが可哀想だと思った比嘉はなんとかアルカンジェリにコンタクトを取って、1作だけ感想を送って、それで勘弁してもらおうと考えた。
   【思い知ったかな?】
   とコメントが来たのでこう返事した。
   【感想は書きますが、せめて1作にしてもらえないでしょうか?】
   【3作!! 無理なら爆弾!!】
   【わかりました…】
   【・・・よかろうしかし結局後輩や沖縄文学界のことを全くおまえが考えれいないというこつが結局よくわあったよ残念至極だお・・・ちなみに俺様は〈芥川賞〉を寝らっていてその前段階として〈すばる文学賞〉を狙ってえるから〈すばる文学賞〉の審査員になっれつもりで完走をくれたまえお世辞とかは不要!厳しめ希望!!ゆるい感想なら即爆弾!!!】
   比嘉は青年の作品にざっと目を通した。しかしその全部が勇者がドラゴンと闘ったり、魔法使いが騎士団と闘ったりするような、およそ純文学としては少しも成立していないようなものばかりで頭が痛くなった。それでも比嘉は頑張って、その中から比較的マシなものを3作選んで、なんとか感想を書くことにした。
   【まず『皇子シャルロット3世と銀月の騎士団』を読みました。失礼ですがこれは〈すばる文学賞〉に送ってもまず粗選すら通過できないでしょう。〈すばる文学賞〉どころか〈琉球新報短編小説賞〉に送っても無理でしょう。なぜならまず誤字脱字が多く句読点すら打っていないからです。そもそも日本語そのものが致命的におかしい箇所も沢山あります。失礼ながら貴方には思いやりがない。読者に何かを伝えたい、面白がらせたい、感動させたい、という創作に欠かせない要素は思いやりを素地にして生まれてきます。どうか他人を思いやる心を持って下さい。賞を取りたい、有名になりたい、ちやほやされたい……そんなことばかり考えて自我の殻に閉じこもっていては駄目ですよ。
   次に駄目な点は、現実を描こうとしない姿勢です。純文学というものは現実を描かなければいけません。しかしこの作品は現代の日本が舞台なのに名前が「シャルロット」「エリン」「レオ」「アリョーナ」などと洋風になっています。しかも揃いも揃って髪と目の色が青色とか赤色になっています。それからなぜ移動するのに電車やタクシーではなく馬車に乗らせるのですか? 考えてもみて下さい。現実世界で甲冑と剣を身にまとって頭と目を奇抜な色に染めた珍奇な集団が馬車に乗って渋谷の109の前を行幸したら貴方の小説のように群衆たちは「わぁすごい!」と言うでしょうか? 「わぁやべえ奴らが来た!」となるのではないでしょうか? 無意味な異国趣味は排除すべきです。それから勇者たちをやたらと渋谷や新宿に転生させて東京の人間をひれ伏させるような田舎者の願望みたいなセコいマウンティングも辞めて下さい。非常にみっともないです。
   ドラゴンと闘うのも魔法を出すのも辞めて下さい。幼稚すぎです。もう貴方は18歳なのですから空想の世界に逃避するのではなく現実の中で現実に即した現実的な問題意識を獲得して現実的に闘って下さい。そうやって現実と向き合って苦闘する姿こそが純文学であり読者の感動を呼び作家自身の成長にもつながるはずですから。
   批判したいことはまだまだ山ほどありますが、ちょっと休憩します。続きはまた十分後に】
   比嘉はご飯を食べてタバコを吸った。そして十分後。
   【クレームじみた感想わ結構!!!名誉毀損!!!貴様わよほど那覇地裁で会いたうようだなよかろうしかしい結局気様が凡百な駄作家だということがわかったよ覚えてえろよ木様の住所は知ってれし明日殺しに行くからにゃ!貴様のいろいろな個人情報もネットにばら撒いてやるからお!】
   比嘉は返事を書いた。
   【実は出版社の人間が心配してくれて既に県警に相談してくれています。何かあれば通報して下さい、とのことです。このコメント欄は出版社の人間が常時監視しているので今頃通報してくれているはずです。那覇地裁でお会いしましょう。……しかし、二度と私に関わらないことをお約束してくれるなら訴えを取り下げても構いませんが】
   30分後、アルカンジェリからコメントが来たが、ここではとても紹介できないような罵詈讒謗が長々とつづられていた。
   数日後アルカンジェリは逮捕された。那覇の高層マンションではなく宜野湾の場末のアパートで1人暮らしをしていた。18歳ではなく比嘉と同じ40代だった。
   【有名な作家になりたくて教えてもらおうとした。でも作品を否定されて、ついムシャクシャしてしまった】
   と供述したらしい。
   比嘉は先輩の作家がこんなことを言っていたのを思い出した。
   「有名になると批評家やメディアからの批判だけでなく、一般読者からもおかしな手紙やらメールが沢山来るようになるよ。そういうのに辛抱強く対処するのも作家の仕事の一つだよ」
   比嘉はため息をついた。
   「作家って大変だな…」
   比嘉はちょっと注目されたとはいえ作家としてはまだまだ未熟で、貧しい生活を送っている我が身をかえりみて、むなしさばかりがつのった。
   「おれもアルカンジェリもそう大差ないのさ。……現実と向き合え、か。大変だな、現実っていうのも…」

   ※   ※   ※

   騒動が落ち着いた頃。今度は【宇宙の王・サンバルタンサン】と名乗る人物から手紙と大量の原稿用紙が届いた。
   【我は月の裏側第211-$E側クレーター西海外のクリスタル・パレス・ハウスに鎮座し給う宇宙を統べる唯一無二の王である。此の度地球に在する古今の文学を凌駕するハイ=レヴェルの真の傑作文学を格式高き月文字によりて書き著したゆえ読んで感想を送るがよい。送らなければ我が使いの大天使サミュエル・ホッセル・ハインリケがそなたの心臓と腸をえぐり出しまだ微かに意識の残るそなたの口内にそれら熱々の湯気を立てる内臓を無理矢理押し込み咀嚼・嚥下を強要するという地獄の責め苦を味わわせることに相成るだろう】
   原稿用紙は1000枚の大作で、普通の字ではなくミミズがのたうつような奇妙な細かい大小の曲線が、余白や裏部分にまで隙間なく書き込まれている。
   原稿用紙を持つ比嘉の手は恐怖で震えていた。しかし震えながら、
   「現実と向き合え…」と必死に自分を叱咤していた。

   終


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