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『プー』

   『プー』


   「地底人」を名乗る動物が穴を掘って地面から出てきた。ぞろぞろと、たくさんの数が、群れをなして出てきた。
   ちょうど豚を小さくしたような、醜いけれどどこか愛嬌のある姿かたちをしており、大人しく、従順で、人間並みの知能があり、いくつもの言語を操った。
   世界中が驚いた。そして、「可愛い」と歓迎し、彼らと友達になった。
   しかし日本だけはちがった。彼らを「醜い」と否定した。そうして「侵略者」とみなし収容所にぶち込んだ。
   為政者たちは口では「敵対的生物」と危険をあおりながらも、じつは心のなかでは歓迎していた。「新しい労働力が手に入った」という理由で。
   「助けてプー」
   「なんでもしますプー」
   こういって、地に頭をこすりつけて、泣いて許しを乞う地底人を、為政者たちはマスコミに命じて、面白おかしく報道させた。報道をみた日本人らは笑った。
   「汚い言葉使い」
   「プープー、だってさ」
   「オナラみたいだ」
   「こいつらをこれからプーと呼ぼうぜ」
   こうして「地底人は劣等民族」であり「どんなふうに扱ってやっても構わない」という国民的な総意が形成されてしまった。
   企業はプーをしゃにむに働かせた。
   「おまえらのような下品な動物は人間じゃないから人権などない。よって死ぬまで働いてもらうぞ」
   国民も、老いも若きもプーをあざけり、ときには虐待した。
   「おまえらのような下品な動物は人間じゃないから、殺したっていいんだ」
   プーはおとなしいうえに、働き者で、しかも主食が土だから燃費もよく、奴隷にはうってつけだった。
   一年経ったある時、世界中で、プーの人権を守ろうではないか、という動きが出始めた。そのために、まずはプーがどのような生物なのかを科学的に調査しよう、ということになった。プーが人間の起源であることが証明されれば、彼らは動物ではない。人間と同族である。よって庇護の対象として人権を付与しなければならない、ということになる。
   日本人はあわてた。困った困った、といって、右往左往した。そして国際社会にむかって毅然とした態度で「プーは人間にあらず。人類の驚異となり得る可能性を秘めた敵対的生物である。科学的調査は大変遺憾である」と訴えた。しかし誰も聞く者はいなかった。日本は孤立した。困った困った、といって、右往左往した。しかし日本は毅然としてプーを奴隷として扱い続けた。世界中が非難した。日本は怒って世界中との国交を絶った。完全に孤立したのである。
   そんな中、世界はある衝撃の事実に突き当たっていた。プーは日本の主張する通り「敵対的生物」であることが判明したのだ。プーは本来凶暴で好戦的であり、歯茎の奥に隠した鋭い牙で、人間の体を八つ裂きにすることができるのだ。しかし従順を装い、「友達だプー」などといって、世界を騙し続けたのである。
   プーの目的は世界征服であった。古代から地底を掘り進み、ようやく地表に到達した彼らは、世界を愛嬌で騙し続けながら、その裏で、地表すれすれの地下を空洞に掘り抜き、完全に地球の地下を丸く掘り抜いたところで、薄くのこった地表を一斉に食べ尽くし、人間どもを地底に落としてやろう、そして地底に人間を奴隷にした帝国を築いてやろうと図っていたのだ。
   そのもくろみは中途で崩れた。すんでのところで世界中がプーの駆除に乗り出したから。強力なプーの牙も、力と知恵を結束した人間たちの敵ではなかった。やがてプーを駆除し終えた人々は地下の空洞を埋めて、一箇所に集まって互いの労をねぎらいシャンパンで乾杯した。
   それから世界中の為政者たちは日本に詫びの電話を掛けた。
   「××首相。あなたのいう通り、プーは敵対的生物でした。心よりお詫び申し上げます。日本の皆様もプーの退治、お疲れ様です。再び国交を回復して仲良く乾杯しませんか? もしもし? おかしい、通じないな…」
   そのころ、日本人はプーの奴隷になっていた。
   日本は科学的調査などやっていなかったから、プーの驚異に気付けず、ある日突然国民そろって暗い穴の中に真っ逆さま。気が付くと収容所の中で犬のように素っ裸で鎖の付いた首輪を付けられていた。
   プーは冷酷な眼で日本人を見つめ、こういいはなった。
   「たっぷり働いてもらうぞ。おまえらのような下品な動物は人間じゃないから、死ぬまで働かせたっていいんだ。そうだよな、ヤプー?」
   日本人は憤激した。しかし、どうしようもなかった。困った困った、といって、右往左往した。そしてとりあえず、『花は咲く』を歌った。
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