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小説『平和の詩』

『平和の詩』


彼は『何でも鑑定団』を観ていた。

『いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん、いっせんまん!』
『出たぁ~! 一千五百万~! ごっつ鳥肌立った~! おめでとうございます~!』

彼は思った。
「俺も鑑定団に出たいなぁ。家にすごいお宝があればいいのに。それを売った金で寿司を食べたり旅行に行ったりしたいなぁ。探してみよう」
家中を探したが、何も出なかった。ただ唯一、亡くなった祖父の押入れから、『支那戦記』という古い従軍日記が見つかった。
壮絶な戦いの記録で、敵をたくさん殺したり、味方もたくさん殺されたり、……とにかく壮絶で、彼は「お宝だ!」と喜んで、出版社に持っていった。

編集者は「面白い」と言ってくれた。
「出版したら売れますかねぇ」
「いや、売れないでしょう」
「え?」
「このままでは売れません」
「なぜ?」
「いいですか。読者は中学生だと思って下さい」
「は?」
「沖縄の読者たちは全員中学生レベルの頭脳です。県内の書店で売れた本のランキングを見た事ありますか? 下らない本ばかりですよ」
「そういえば、確かにそうだ。ダイエットの本とか、家事のテクニックの本とか、推理小説とか、恋愛小説とか、中国韓国をネタにしたヘイト本とか、海や花の写真集とか、漫画とか、そんなんばっかりだ」
「その通り。そんな幼稚な中学生どもが、貴方のお爺さんのお堅い戦記なんて読むでしょうか」
「読みませんね。ああ残念だ」
「読みやすいように思い切って改変しちゃいましょう。そうすれば売れるはずです」
「改変?」
「戦記には中国人を殺す描写がたくさん出てきます。それをごっそり削除するのです」
「なるほど。しかし、それはちょっと…不謹慎なような」
「不謹慎なもんですか。たとえば沖縄には『ひめゆり部隊』や『対馬丸』などの数々の逸話がありますよね? 沖縄県民は可哀想な被害者である。そう主張した逸話ばっかりですよね?」
「実際沖縄県民は被害者でしょう?」
「しかし実は沖縄県民も(貴方のお爺様の描かれているように)中国大陸で殺戮と強姦を行いました。南洋群島でもたくさんの現地人を殺戮しました。ですが、沖縄県民はそういった加害を語ろうとはしません。あくまでも被害しか語りません。なぜか? 被害の話は『泣ける』からです。『感動』できるからです。先ほども申し上げた通り、沖縄県民のパーソナリティーは中学生レベルですからね。楽しい話にしか興味が湧かないのですよ」
「な~る」男は両手で膝を叩いた。「それなら別に不謹慎ではないですね」
「ええ。ですから貴方の手で中国人を殺す描写を全部削って下さい。そしてお爺様の被害だけを感傷たっぷりにドラマチックに描いてみて下さい。お堅い文章は駄目です。童話のように書いて下さい。『です・ます』で行きましょう。爆弾で肉体がバラバラになるような表現もやわらかい表現に改変して下さい。読者を中学生レベルだと思いながら描いて下さい。大丈夫です。私も協力しますので」
「分かりました。よろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそ。ベストセラーを目指して頑張りましょう」
彼は喜びのあまり、跳ねるようにして出版社を出て行った。
編集者は浮かない顔をして深い溜め息を付いた。

彼の改変した本は、
『平和の詩 ~おじいちゃんの戦争のお話~』
というタイトルで出版された。
すると瞬く間に県内でベストセラーになった。
『感動した!』という感想がSNSで拡散され、沖縄のテレビに取り上げられたり、学校で反戦学習の教材に使われたり、読み聞かせに使われるようになったりした。
そしてとうとう県指定の課題図書になった。
講演依頼が彼のもとに殺到して、熱情たっぷり、時には涙を流し、嘘をまじえながら、彼は祖父の被害体験を語るのだった。
やがて日本本土にも本の評判が伝わり、アニメ映画化の話が舞い込んで来た。彼は一も二もなくOKした。

彼はたらふく寿司を食べて、たくさん旅行をした。旅先でこんな夢をみた。
鑑定団に祖父の戦記の鑑定を依頼した夢だ。

『いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん、ひゃくまん、いっせんまん、いちおく、……鑑定不能!!!』
『出たぁ~! 鑑定不能レベルのお宝~! ごっつ鳥肌立った~! おめでとうございます~!』
『ありがとう今田さん』
『どうします? 売るんでっか?』
『もちろん。どんどん売りますよ。賞味期限が切れるまで、売って売って売りまくりますよ。そして家と車を買いますよ』


(終)


【追記】
その後。戦争責任を研究している大学教授たちが、『平和の詩』の原典に中国人に対する加害の記述が頻出するという事実を嗅ぎ付けて、しつこく彼に原典の提供をお願いして来た。
「そんな事をしたら売れなくなってしまうじゃないか!」
彼はかんかんに怒った。そして『支那戦記』を家庭ゴミに出した。
第一級の戦争資料である『支那戦記』。東史郎の『南京プラトーン』以上の衝撃の書物である『支那戦記』。それはしかし、金儲けの為に、ゴミ収集車の中でバリバリバリと圧搾されて、さらにゴミ集積所でバキゴリボキャゴキャと粉々にされると、ゴーゴーゴーと容赦なく燃やされて、黒い空気になって空の上をモクモクモクと漂って、そして永遠に消滅した。ただそこには心地よい湿気を孕んだ風と、やさしい三線の響きと、ヤギのいななきと、マントルの熱を伝える大地を踏みしめた子供達がきゃっきゃっとはしゃいでいた。ーーこうして平和と子供達の笑顔は守られたのだった。
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