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『慰霊の日』

   『慰霊の日』


   『村の皆さん、今日は沖縄戦慰霊の日です。皆で黙祷しましょう』
   公民館のスピーカーから放送が流れ、正午を伝える「ウーウーウー」というサイレンが耳をつんざく。
   朝から酒を飲んでドンチャン騒ぎしていた村の連中も妙にかしこまり、居住まいを正して、「さぁさぁ、黙祷だ」と言い、「たっくん、こっちにおいで」と幼稚園児のタカシを呼んで、正座をさせ、目を閉じさせ、手を合わさせるのであった。しかしたっくんは、
   (……)
   目を閉じ、ただ手を合わせただけで、心の中ではなにも唱えなかった。親や村の連中から具体的に黙祷の意味を教えられていなかったから、黙祷がどんなものなのかを知らなかったのだ。
   たっくんは毎年儀礼的・機械的に黙祷を終えた後に放送される戦争アニメを楽しみにしていた。しかし別に戦争を学ぼうという問題意識があったわけではなく、ただ「アニメは面白いから」という理由で楽しみにしていただけであった。
   今年の戦争アニメは『火垂るの墓』だった。すると村の連中が東京大空襲で困苦を舐めた親戚の話をした。
   「米軍は焼夷弾なんて使いやがってなぁ…」
   「焼夷弾って、なんかぁ?」
   「火がよく燃える爆弾で、家を燃やしていったのさ」
   「あきさみよ」
   「あれで俺の親戚のオジイは、肉親を失ったらしい…」
   「可哀想になぁ。そんなことがあったのかぁ。空襲被害者って可哀想だなぁ」
   すると酔っ払いの一人のスマホがブルブルっと鳴った。
   「なんかぁ? コレかぁ?」酔っ払いの一人がニヤニヤと小指を突き立てた。
   「バカ。ラインの通知さぁ。ニュースさぁ。……あぁ?」酔っ払いは顔色を変えた。「おいおい。東京の空襲被害者が国を提訴したってよ。『国の責任と天皇の責任を明確にし糾弾する意向』ってよ。バッカじゃねぇの?」
   皆は口々に非難した。
   「昭和天皇にタテ突くなんて罰当たりが」
   「中国の回し者かよ」
   「全員絞首刑だ」
   「こいつらの住んでる所を自衛隊が空襲すればいいのにな」
   「空襲被害者はゴミだ、クソだ、恥じ知らずだ」
   たっくんはビックリした。そして『火垂るの墓』の兄妹はゴミでクソで恥じ知らずで、殺されたほうがいいの…? などと混乱しながらテレビを観た。そういう訳だからたっくんは『火垂るの墓』の中から「反戦」のメッセージを読み取ることができなかった。
   空襲被害者をクサしていた酔っ払い連中だったが、次の瞬間にはパチンコの話で盛り上がり、またドンチャンやってガッハッハァ! とバカ笑いした。
   アニメを観終わったたっくんもテレビを消して、ゲームを始めた。

   ン十年後、たっくんもまた酔っ払いの大人になり、適当に戦争美談に酔いしれたり、国に反旗を翻す戦争被害者を攻撃する徒になったのであった。しかしそもそもそういう小難しいことは一年に一度「慰霊の日」に語るのみであって、あとの日はパチンコと麻雀と酒と女遊びに興じるのであった。
   

(終)
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