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更新が滞りそうです

この頃病状が悪化しています。あまり更新できなくなるかもしれません。更新できたとしても、おバカな小説とか、雑文とかになるかもしれません。自分のような文才も何もないちっぽけな人間のブログを見て下さっている方には感謝しかありません。本当に有難うございます。「こいつイタ面白いw」みたいな感じで見ている方も多いかもしれませんが、それでもとても嬉しいです。そんな読者の方々には申し訳ありませんがとりあえず今は病状の回復に専念します。そして少しずつ何か書いて行ければ…と思います。漱石の後期作品の批評とかもやり直したいですし、哲学もやりたいですし、いろいろとやりたいことは沢山あるので、病状が良くなれば精いっぱい頑張って書いていこうと思っています。
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テーマ : つぶやき
ジャンル : 小説・文学

小説

バカ丸出しです。

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テーマ : オリジナル小説
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童話

   『消えたゾウ』

   寒い朝のこと……地面に暗い穴が開いてモッちゃんが落ちて、消えてしまった。
   モッちゃんに「おう」と声をかけて、肩をたたこうとしていた俺は、おどろいてしまった。…みんな見ていたはずだ。同級生たちも、小学生たちも、サラリーマンやOLたちも……でもだれも気付いていなかった。
   (俺は頭がおかしくなったのか…? 受験勉強をやりすぎて……)
   俺は自分が心配になった。でもそれ以上に、モッちゃんが心配だった。
   (モッちゃん……モッちゃん……!)
   心の中でさけびながら、必死に走って、モッちゃんを探す。いなかった。みんな変な顔をして俺をみていたが、俺はそんなことにはかまわなかった。モッちゃんは大親友だったから。でも、どんなにさがしても、モッちゃんはいなかった。
   「あいつ、さっきからなにしてんだ?」
   同級生たちが俺をみてニヤニヤと笑っていた。

   『【茂木元也君 15歳 中学3年生】 ×月×日朝×時×分ごろこの通学路で迷子になりました。情報をお持ちの方は最寄りの交番か県警に…』
   
   つづきは読めなかった。立て看板が蹴られて壊されていたから。そしてモッちゃんの顔写真はスプレーで真っ黒く塗りつぶされていた。
   泣きながらビラをくばる、モッちゃんの父親と母親。ビラを取り、やぶったり、クシャクシャにして捨てて、ストレス発散をする小中学生たち…。
   …モッちゃん。どこなのか。…でも、なんかもう、どうでもいいような気もする自分がいて、そんな自分にいやけがさす……
   「リトマス試験紙は…ピンク色に……」
   「それから大政奉還の年は?…………」
   みんな教室で、受験のことばかりつぶやいたり、話していた。お題を出し合い、解答し合う。あるいは教科書をひらいて、しずかに自主勉。つまらない。それにシンキクサイ。みんなの顔はつかれ、暗い顔をしている。

   『…沖縄にミステリーがあったことをご存知でしょうか? 外国から那覇にやってきたゾウが、こつぜんと消えてしまったのです…』

   ぼーっとしながら俺はローカルのニュースをみつめていた。
   これかもしれない。これと同じことが、モッちゃんの身にもふりかかったのではないか…………このなぞを追えば、モッちゃんは助かるかも………………
   (モッちゃんの両親に電話をしようか……?)
   電話のところへいって、受話器をつかむ。…でも、番号を押す気力がでなかった。……
   もう、俺は受験勉強でつかれていたのだ。考えることもいやだった。

   …消えた友人を探すことーーそれがいったい、この世において、どれほどの意味をもつというのだろうか?


   いま受験勉強をしなければ…石にかじりついてでもがんばらなければ、……俺は合格できない。就職にも影響が出る。なくなる。俺の将来がなくなる、なくなってしまう。…………それなら、もうなくなってしまったモッちゃんを探すよりも、自分の将来をなくさないように、しっかり勉強したほうがいいにきまってる……


   俺は電話を置いて、部屋にこもる、……受験勉強をする。



   (自分の将来をなくさないように…がんばるのだ………)


   だけど俺はふと、思った。
   
   そんなことを考える俺はもう、自分の将来をなくしたも同然だ。俺は自分の心をなくしたのとおんなじだ





最低だ俺は




死んだも同然だ 生きている意味なんか…




すると腹のそこからドッと罪悪感や絶望感が湧いてきたのを感じて    
全身が冷たくなって

なにげなく足元をみたら     床に暗い穴が開いて



  落ちて     
                消えてしまった





(終)
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二葉亭四迷『浮雲』感想(終)

『浮雲』は本当に素晴らしいです。
内海文三は優れていますが、『こころ』の先生のほうが人生経験もあるし、知識人としての力量もあります。賢さでは先生のほうが遥かに上ですが、先生は財産等々に縛られていて、結局、精神レベルの飛躍的な浮上ができません。
文三は先生よりも知的にも人格的にも未熟ですが、精神レベルとしては先生を遥かに飛躍的に上回る可能性を秘めています。文三は何物にも縛られていないぶん、明治の社会的発展の果実を端的に獲得することができます。先生には知的や人格の点で及ばないにしても、精神レベルは向上するだろうし、先生の古臭い知識や人格とは違った全く新しい価値観や思想を作れるはずです。
先生の持っている資質は悉く優れているけれど、悉く古臭い。先生の精神は、そのまま継承するというよりは、継承しつつも質的な根本的な変換や止揚が必要で、文三はそれをできる可能性を持っています。惜しいのは可能性を見せただけで終わっている点です。…

ーーーーーー

文三は昇に「痩せ我慢」と言われて、言い返そうとしたけれど何も言えず、まごまごしてしまって、皆から笑われる…。これは文三の「負け」ではない。文三の「負け」だと思う人は「人間の価値が地位や財産で決まる」と思っている為である。しかし人間の価値は地位や財産といった外面的な物ではなく、精神の質そのもので決まる。文三は地位・財産よりも精神の質を鍛錬する方向へと、価値観を転換させていく過程を歩いている。地位・財産に執着することは悪いことではないし、非難されることではない。地位・財産に執着する昇のような階級の人たちが経済を発展させているのは事実である。文三はそういう現実やそういう階級があることを受け入れつつ、肯定しつつ、そういう階級とはまた違った自己の行くべき道を探している。文三が作家になるのか思想家になるのか、確定はされていないが、ともかく昇の階級とは違った、精神の質を磨く道に行くことは確定されている。文三は日本の歴史上では初めて、凡俗から抜きん出た、本当の正義感や真面目を形成しつつある。そういう意味で文三は偉大である。が、正義感や真面目といった精神がおざなりにされて、地位や財産のほうが重宝される日本では、文三の価値は理解されない。しかし理解されないという現実も受け入れて、文三は我が道を行く。

文三は、昇に言い返したり、殴ったりしないことを、元同僚の山口に咎められ、軽蔑されるが、言い返したり殴ったりすることは、昇や昇の階級に依存することである。文三は、言い返したり殴ったりしないことで、昇や昇の階級からの分離を無意識に図っている。
文三は道徳的批判意識をあっさりと捨ててしまっている。そしてあっという間に昇からの分離を大きな物にしている。漱石が一生かかってやり遂げた分離を、文三は初心な青二才ながらも簡単にやってのけている。これだけでも文三の非凡さがよく分かる。もっとも精神の質に重きを置かない日本では文三の非凡さは平凡に映ずる。そして『浮雲』はつまらない、文三はいくじなし、ウジウジしてる、という下らない誤った評価を受け続ける。これは『浮雲』が悪いのではなく読者が悪い。

ーーーーーー

文三は、お勢とお政が、自分と同じ気質…つまり正義感や真面目といった綺麗な人情を共有していると思っていた。関係がこじれてからも、共有の幻想を抱いており、どうして同じ気質を共有しているのに分かってくれないのだろうと、不信に思っていたが、ようやく共有が幻想であると知った。そもそもの初めから文三とお勢・お政の気質には根本的な違いがあった。性根が180度違っていた、という事実の識認(認識)を得た。昇が園田家に入り込み、昇とお勢・お政が接近する様子を間近で見、文三は認識を確かな物にしていく。昇のおかげで文三は目覚めることができた。

ーーーーーー

文三とお勢の恋はなかなかしっくり行かなかった。それというのも文三は真面目だから誠実に恋を欲求したが、お勢は不真面目だからもっとふざけた享楽的な雰囲気の中で恋を楽しもうとしていたから。
お勢はおなじく享楽的に恋を楽しむ昇とこそ馬が合った。しかし昇は課長の妻の妹のほうに気がある。昇は人格ではなく相手の地位や財力に恋をする。お勢は遊ばれた末に捨てられる未来が既に何度も暗示されている。

ーーーーーー

お勢には理性がなく文三のように認識もできないから、昇に本気で惚れてしまい、昇と真面目に恋愛をしようとしている。
そういう気持ちがお勢を編物教室へ通わす。昇に対してもどこか冷淡になる。冷淡になったのは、これまでの昇との享楽的な関係を脱皮して、真面目な恋愛をしたいというお勢の態度の変化による。
お勢なりの精一杯の真面目であるが、所詮は不真面目と同類の、上辺だけの真面目さである。根っからの不真面目人間である昇とお政にはこのお勢の変化が理解できない。享楽的関係しか興味のない昇は、お勢の元へと来なくなってしまう。
根っからの真面目人間であり、同時にお勢とお政にあれだけ嫌悪され痛罵されても二人を愛し守りたいと思う文三には、お勢の変化は昇を拒絶する態度と思われて好もしく思う。…文三は「認識」を得たものの、真面目ゆえにお勢を愛する気持ちで、まだ目がくらんでいる。お勢が昇に冷淡になった変化の本質が分からない。お勢が本気で昇に惚れているから昇を拒絶するということが、お勢を愛する気持ちによって文三には理解できない。このお勢へのわずかに残った愛、これを粉々に破壊し粉砕することが、文三の課題である。お勢には全く真面目さが無いということを、「愛」という色眼鏡を破壊して、粉砕して、認識すること。それが本当の真面目さを得ることである。愛の破壊、粉砕、払拭…そしてお勢を見限り、お政を見限り、叔父をも見限って、昇の手によって園田家を滅茶苦茶にされることを容認すること……それが文三の真の現実認識の獲得であり真面目さの獲得でありこの作品における文三の最終的な課題である。
作品は中途半端な形で終わっているが、文三は見事にお勢への愛着をほとんど捨て去っているし、「その時こそ断然叔父の家を辞し去ろう」と言っていることからも、文三の、そして四迷の現実認識の最終的な課題は貫徹されたと言っても良いだろう。

文三は(四迷は)お勢を完璧に見限った。お勢に完全に愛想を尽かした。これは悲劇ではなく建設的な終わり方である。お勢を超えた認識を得た訳だから。『浮雲』は恋愛劇ではなく認識の劇であるから。

ーーーーー

『浮雲』のように、日本(日本人)を徹底的に悪く描いた作品は、他に無いのではないか、と思う。日本人は俗物であり、浮気性であり、遊び好きであり、どんちゃん騒ぎが好きで、明日への見通しを何も考えず、ただ享楽的に生きている…ということを、四迷はお勢・お政・昇を通して見事に描き出した。お勢・お政・昇は本当に気持ちが悪い、堕落し腐敗し切った、クソみたいな生き物である。こんな気持ちの悪いクソみたいな生き物はまともに批判するのではなく文三のように分離するのが一番である。


園田家は日本の縮図であり、園田家で繰り広げられる醜態は日本人の醜態の象徴である。日本人の克服すべき課題として四迷は園田家を創造しているから園田家は批判・否定しなければいけない。だが園田家内部からの園田家の批判は難しい。園田家から離れた所から園田家を客観的に見れないと園田家の批判はできない。しかし大抵の読者は園田家の精神を共有しているので園田家内部から園田家を見て、園田家を肯定し、文三を否定する結果に陥る。あるいはお政も悪いが文三も悪い、というふうな評価をしてしまう。園田家は腐っており全力で否定しなければならない。否定し、園田家から出る(分離する)ことが大切である。
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テーマ : 読書感想文
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「私は入管と警察に家族を奪われた」ルイスさんの告発

「私は入管と警察に家族を奪われた」ルイスさんの告発 1
https://pinkydra.exblog.jp/27551094/

「私は入管と警察に家族を奪われた」ルイスさんの告発 2
https://pinkydra.exblog.jp/27551104/

「私は入管と警察に家族を奪われた」ルイスさんの告発 3
https://pinkydra.exblog.jp/27551108/


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『虐殺教育』

   「たっくん遊ぼー」いっちゃんだった。「マサシの所に行こう。またお菓子貰えるはずよー」
   「おい」オバアが怒った。「このアホンダラァ。また勝手に人の家に上がり込んで。キチガイひゃー!」
   「たっくん行こー」いっちゃんはお構いなしだ。
   「ダメだよ。今日は慰霊の日だから、家で大人しくしてないといけないんだよ」
   「なにそれー? そんなの聞いたことないよー」
   「慰霊の日は、沖縄戦で亡くなった人の魂が安らかに眠れるように、お祈りする日なんだよぉ」オバアが言った。
   いっちゃんはキョトンとしている。
   「亡くなった人のことなんか考えてどうするの? 魂っていうのは、作り話で、テレビとか映画とかでしか出て来ない、ウソの物なんだよー。オバーは大人なのにそんなこと信じてるんかー?」
   「アキサミヨイ! バチ当たりどぅー! 親がいないから、頭がおかしくなってるさぁ…」

   いっちゃんは両親を早くに亡くしていた。で、養護施設に住んでいた。親の干渉なく伸び伸び暮らしているせいか、いっちゃんはたっくんよりも自由な気風を持っている。お腹が空いたと言って、勝手に人の家に上がって行って冷蔵庫をあさったりするし、鳥モチの付いた釣り糸を垂らしてお賽銭を泥棒したりするし、スーパーの天ぷらを勝手に食べたりもするし。でも素直ないい子だから、嫌われてはいないけれど、それほど良く思わない大人がいるのも確かで。
   「俺は〈いっちゃん偉い〉(一番偉い)んだよ。だからいっちゃんって呼んでね」と皆に言っていた。
   「どうしていっちゃん偉いの?」たっくんが聞くと、
   「いっちゃん偉いからさ」と言った。
   「じゃあ、なぜ自分がいっちゃん偉いんだ、と思いたいの?」
   「…」いっちゃんは答えなかった。
   「さびしいの? 偉くなったら、いろんな人が寄って来てくれると思ってるの?」
   「…うん」
   いっちゃんには友達がいなかった。鬼ごっこをしても、勝手にルールを変更したり、かくれんぼをしてる時にサッカーをしたりするから、皆からワガママだと思われていた。
   「じゃあ俺が友達になるよ」
   いっちゃんは顔を輝かせた。
   それから二人は友達になった。

   「いっちゃん。ごめんね。今日は慰霊の日だから」
   「えー。じゃあ、ここで遊ぼう。鬼ごっこするか? まずオバアから鬼やってよ」
   「はっさよ! 何を言ってるかこのガキ。年寄りが鬼できるか」オバアは思わず噴き出した。
   たっくんも噴き出した。
   いっちゃんは勝手にテーブルのお菓子を食べて、たっくんの飲みかけのお茶を飲んだ。
   「これ! 勝手に食いおって…」
   オバアが止めようとした時、障子が開いてオジイが入って来た。
   そしてその後ろから例の語り部の光晴が入って来た。
   「こんにちは。君がたっくんだね」
   オバアとオジイは、たっくんに説明した。
   この人は光晴さんと言って、有名な沖縄戦の語り部さんで、沖縄戦に興味のあるたっくんのために、何日間、あるいは何ヶ月か、沖縄戦のことを教えてくれる。…と。
   「よろしくお願いします」
   そう挨拶するたっくんの顔には、うっすらと笑みが浮かんでいた。光晴はその笑みを見逃さなかった。
   (この子、気付いているな。俺がここに来た本当の意図を)
   光晴の中で情熱が湧いた。
   (面白い。やりがいがある…燃えてきたぞ。この子の平和意識を完全に摘んでやろうではないか!)
   「さて、たっくん。まずはDVDでも見ようか」
   「沖縄戦のDVD?」たっくんが聞いた。
   「どうだろうなぁ」光晴の声はやわらかい。子供を懐柔するのにうってつけな優しい声音。「そうだ。お菓子を上げよう」
   「俺にもちょうだい」いっちゃんが言った。
   すると奥からお父さんとお母さんが出て来て光晴に挨拶を済ませると、いっちゃんに「帰りなさい」と恫喝するように命令した。
   光晴は、
   「いいよいいよ。この子も一緒に勉強させよう。皆で楽しくやると集中力がアップするよぉ」
   光晴は長年の経験から、子供は飽きっぽいので、お菓子を与えたり、友達と一緒に学習させることで、集中力が持続するということを知っていたのだ。
   そこで皆は座って、笑顔でいっちゃんを引き止めた。オバアがいっちゃんの分のお茶を入れた。
   いっちゃんは「コーラがいいなー」と言いながら、しぶしぶお茶を飲んだ。
   「さて。用意はいいかな皆」光晴はDVDをセットした。「それでは始まり始まり」
   それはアニメだった。なるほど、子供用にアニメをチョイスしたのか、と大人たちは思った。(ひめゆり?)(対馬丸かな?)・・・と予想したが、次の瞬間(え?)という表情になった。
   なぜか『アンネの日記』のアニメだったのだ。たっくんも(え?)という顔をした。(どうせ沖縄戦のアニメだろう。さっきマサシさんが教えてくれた通り〈感傷の洪水〉で俺を感動漬けにして、脳味噌を甘ったるい平和ボケに洗脳して、×××島の虐殺のことを忘れさせようとしているんだ。気を付けるぞ)と思っていたから、(なぜドイツの戦争の話なんだ)と混乱してしまった。
   しかもアニメは光晴が厳選しただけあって、ついつい大人が引き込まれるくらい作り込まれてあり、面白かった。大人が「面白い」と思うのだから子供にしてみれば「めちゃくちゃ面白かった」ほどのレベルだった。
   そもそもアンネ・フランクの悲劇をアニメにしてしまう国は、世界中を探しても日本だけらしい。悲劇は悲劇として、ありのままにその残酷さを伝える…それが西欧での常識であるようだ。しかし日本人は戦争に感動を求めてしまう慣習がある。涙を流し、ああ面白かったと言って、エンターテインメントとして消費してしまう嫌いがある。光晴の言う通り、日本人にはどこか不真面目な側面があるのだろう。そしてその不真面目さはもちろん例外なくたっくんの中にもある。戦争から感動や興奮だけを抜き出してああ面白かったと言ってしまうような軽薄さをたっくんも持っているはずだ。光晴はそう信じていた。実際たっくんはいっちゃんと一緒に興奮している。このDVDの狙いは、たっくんの真面目さを〈戦争のエンターテインメント性〉で溶かすこと、であった。〈戦争は真面目に学習するものではなく感動や興奮を得ることである〉という意識をたっくんの中に無意識に醸成することが目的だった。
   「ヒットラーはひどい」
   「ナチスはバカタレだ」
   たっくんといっちゃんは互いに言い合って昂揚している。
   光晴は思う。
   (正義感というものはやっかいだ。正義感は信念や情熱やイデオロギーによって出来ている。人間には色々の感情があるけれど正義感という感情は特殊かつ頑迷な並の感情ではない感情だ。時にはテロを惹起するほどの破滅的な危険性を帯びることもある。しかし、それは大人の場合だ。子供の時分はまだ知識や社会経験がないから確固たる信念や情熱やイデオロギーによって正義感をプロテクトすることはできない。子供の時分の正義感は、大抵は、単純な優しさによって出来ている。この優しさを刺激してやるのだ。ヒットラーの邪悪をたっくんに叩き込むことで、たっくんの優しさを操縦し優しさに支えられた正義感をヒットラー個人の批判にのみ専念させる。そうすることで日本の帝国主義的本質を忘却させる。日本よりもヒットラーはひどいことをした、ヒットラーにくらべたら日本は大したことはしていないではないか…と暗に思わせる。できれば最終的には日本は何も悪いことをしていない、全部左翼の捏造である、と思わせるように仕向けたいが…。ともかく、子供であれ大人であれ、ヒットラーの邪悪だけを偏向的に学習させておけば、正義感は溶けてしまう。反骨精神は崩れ去ってしまう。ヒットラー個人が悪いんだ、ヒットラーが戦争を起こしたのだ、と、なんでもかんでもヒットラーのせいにしてしまうのだ。そして戦争が起こった本質、つまり国民が侵略戦争に積極的に反対しなかったから戦争が起こったのだ、そういう国民の怠慢がヒットラーを生んだのだ、また洗脳や懐柔されてヒットラーに協力したからヒットラーの凶暴性が増したのだ…ということについてはひた隠しに隠し、たっくんの中から反戦意識の芽生えを消すのだ)
   たっくんといっちゃんが矢継ぎ早に質問をした。
   「光晴さん、ヒットラーはどうして戦争をしたの?」とたっくん。。
   「おじさん、ヒットラーはなんでユダヤ人をあんなにしたの?」といっちゃん。
   「ヒットラーはね」光晴は優しい声音で答えた。「いじめっ子なんだよ。だから戦争を起こしたし、ユダヤ人をいじめたんだよ。君たちの学校にもいじめっ子はいるだろう? ヒットラーは手に負えないワガママだったんだよ」
   二人は納得した。光晴はあえて「侵略」「差別」という言葉を避けた。とにかく反戦意識に繋がりそうな言葉は排除する。そしてヒットラーの凶暴性を「いじめっ子」というスケールの小さな言葉に矮小化する。
   「いいかい、たっくん、いっちゃん。戦争はヒットラーが起こしたんだよ。なぜヒットラーは戦争を起こしたか? それはヒットラーがワガママないじめっ子だったからなんだよ。戦争は個人個人の心がけ一つで起こりもするし、無くしもできる。だからたっくんもいっちゃんも、自分の心の中から、ワガママな気持ちを追い払おうね」
   二人はうなずいた。
   しかしたっくんは「うーん」と言った。
   「どうしたの?」
   「うーん。なんかスッキリしないんだよ」
   「なにがスッキリしないの?」
   「いじめっ子っていう理由だけで、戦争を起こすかなぁ?」
   「起こすんだよ。人の心は…」
   たっくんは光晴をさえぎって言った。
   「いじめっ子は皆で止めればいいんじゃないかな」
   「うん。だからヒットラーは手に負えないワガママだったのさ」
   「そんなことないよ。ヒットラーはたった一人だよ。協力すれば、簡単に倒せるよ。…そうだ。皆、きっとヒットラーに洗脳されていたんだよ」
   「洗脳…」
   「ヒットラーはお金をバラまいたり、ユダヤ人を殺したらいい事があるよとか言って、皆を騙したんだよ」
   「ちがうよ。ヒットラーはものすごいいじめっ子だったんだよ。だってさ、たっくん。ものすごいいじめっ子が大砲とか戦車とか持ってて、皆を脅したら、絶対に歯向かえないでしょ?」
   「アハハハ」たっくんは笑った。「光晴さん。国家には国民は何千万とか何億とかって居るんだよ? 大砲や戦車にだって勝てるさ。でも勝とうとしなかったのさ。なんでか? それはやっぱり、騙されていたからなんだよ。オウム真理教みたいに洗脳されていたんだよ」
   「……」
   「洗脳されていたからさっきのアニメみたいにユダヤ人を通報していたんだよ。皆、小さなヒットラーだったんだ。ヒットラーは自分が偉いって思っていたっていうから、きっと皆にもドイツ人は偉いって言っていたんだよ。皆が偉いって勘違いしていて、それが洗脳になって、それがユダヤ人を殺してしまう力になったんだよ」
   「洗脳って言葉はどこで習ったの?」
   「マサシさんが言っていたよ」
   (マサシか。…あの左翼かぶれのUFOオタクめ。覚えておけよ。あとで借金の取り立てがてら嫌がらせをしてやるぞ)
   「マサシさんは、権力は洗脳をするって言っていたよ。日本人も皆洗脳されてるんだってさ。で、力を合わせて、勉強をしたりして、洗脳を解かないといけないって。俺にはよく分からないけど、でも、やっぱりマサシさんの言うみたいに、ドイツ人は洗脳されていたんだよ。悪いのはヒットラーだけじゃない。ドイツ人全部が悪いんだよ。洗脳を解く努力を怠けていたんだよ。きっと昔の日本の人たちも怠けていたから…」
   「確かに君の言う通り洗脳をしていたかもしれないね。でもそれはヒットラーが洗脳したからヒットラーが悪いんであって、洗脳された人たちに罪はないよ」
   「うーん。そうかなぁ」
   「そうだよ。ヒットラーが…」
   「でもやっぱり、俺はヒットラーに騙された人たちも悪いと思うなぁ」
   「何年か前にね、ヒットラーに騙されたお爺さんが、刑務所に入れられたそうだよ」
   「え? 何年か前に? どうして? 戦争が終わって何十年も経ってるのに?」
   「そう。何十年も経ってるのにさ。ひどいと思わない? 家族も居たと思う。可愛い孫もいただろう。それなのに、ヒットラーに騙されたっていうだけで、刑務所に…」
   「でも仕方ないと思う」
   「え?」
   「だって、騙されたせいで、たくさんのユダヤ人が殺されたんでしょ? じゃあ、何十年経ったって、その罪は消えないんじゃないかな」
   「可哀想とは思わないの?」
   「うーん。確かに可哀想だけど、でも仕方ないよ。やったことの責任はちゃんと取らなきゃ。それが大人なんだよ」
   するとお父さんがニヤニヤ笑いながら言った。
   「ケッ。さっきから黙って聞いてりゃ、勝手なことを言いやがって」
   たっくんの表情に不快の色が差した。たっくんは強権的なお父さんが苦手だった。
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『浮雲』雑感

【昇が磬折という風に腰を屈めて、其処に鵠立でいた洋装紳士の背に向ッて荐りに礼拝していた。されども紳士は一向心附かぬ容子で、尚お彼方を向いて鵠立でいたが、再三再四虚辞儀をさしてから、漸くにムシャクシャと頬鬚の生弘ッた気むずかしい貌を此方へ振向けて、昇の貌を眺め、莞然ともせず帽子も被ッたままで唯鷹揚に点頭する…】

   この描写を読んでハッとしました。自分の学生時代に、呼ばれてもわざとムッツリした尊大な顔で無視を決め込んで、三回呼ばれてからようやくこっちの顔も見ずに「うん」と返事する先生が何人か居ました。この経験は面白いと思っていつか小説に書いてみようと思っていましたが、すでに四迷に描かれていました。四迷はとにかく人物をよく観察しています。昇のような小物の俗物の心理も分かるし、課長のような大物の俗物の心理も分かれば、お勢のようなミーハーな「おちゃっぴい」の心理も分かっています。そのうえ文三という俗物とは程遠い正義感の塊のような青年の心理もよく分かっています。 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
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【転載】バックさんの収容やめろ、収容施設の空気の悪さを改善せよ

バックさんの収容やめろ、収容施設の空気の悪さを改善せよ

Posted on: 2018年 09月 15日

 9月12日付で当団体が東日本入国管理センター(牛久入管)に提出した要請文です。

ハー・ヴァン・バックさんの仮放免を即時に認めてください。たとえ貴所が彼に医療を提供しているとしても、彼はすでに回復不能な健康被害を収容により受けており、彼の収容を一時でも延長すべきではないと考えます。
貴所の収容施設における空気環境を改善してください。十分な通気性の確保、空調の清掃の徹底など、被収容者の気管を害さないための抜本的な対策をとるべきです。

次も参照
牛久入管に収容されているバックさんの医療問題(2018年7月4日)

 現在、東日本入国管理センターに収容されているハー・ヴァン・バックさん(ベトナム国籍 男性)への処遇について、また収容所の環境について、問題点を指摘します。

バックさんの収容の不当性
 バックさんは出身国での迫害の恐れを抱き、難民申請をしています。入管に何を強制されても、彼は帰国できません。理由は彼が申告しているとおりです。バックさんを収容することは、彼の自由を無期限に奪うことにしかなりません。在留資格をもたないという理由だけで外国人を無期限に拘禁するというのは、はなはだしい人権侵害であり、権力の濫用です。

バックさんが収容により受けた健康被害
 バックさんは昨年5月末に東京入管に収容されたので、現在、すでに1年3か月以上も拘禁されていることになります。その間に彼は、回復不能な健康被害を受けてしまいました。
 もともと彼は気管が丈夫ではなく、収容施設の空気がよくないために、くしゃみや鼻水が止まりませんでした。しかし東京入管は彼に気管を治すための適切な診療を提供せず、睡眠薬や痛み止めといった気休めの薬しか処方しませんでした。
 今年5月には、バックさんが東京入管の医師のずさんな診察にたいして不満を表明し、適切な気管の検査を求めたことにたいして、東京入管はそれまで彼に処方された薬を没収するという、幼稚で不当な対応をしました。なおバックさんは、行政不服審査法にもとづく不服申し立てをみずから行いましたが、その一週間後に東日本入管センター(牛久入管)に移送され、東京入管への不服申し立てへの回答を受け取っていません。
 牛久に移送されてから、バックさんの鼻炎は悪化し、慢性的に膿が溜まるようになってしまいました。6月中に彼は外部医療機関で慢性のアレルギーと診断され、薬により症状を抑えることはできるものの、気管内の二か所にできた膿は完治できないと告げられています。
(以下全文)
https://pinkydra.exblog.jp/27549703/

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二葉亭四迷『浮雲』感想

【この課長殿というお方は、曾て西欧の水を飲まれた事のあるだけに「殿様風」という事がキツイお嫌いと見えて、常に口を極めて御同僚方の尊大の風を御誹謗遊ばすが、御自分は評判の気むずかし屋で、御意に叶わぬとなると瑣細の事にまで眼を剥出して御立腹遊ばす、言わば自由主義の圧制家という御方】

   この課長の人物像も面白い。かつて洋行していた課長は西欧の空気に半端にかぶれているせいで、同僚の殿様風を半端に誹謗し、そして自分も殿様風な性質を所有している。もしも真剣に西欧の自由主義を学び真剣に自由主義を実践していたのならば、課長は同僚の殿様風を陰で誹謗するのではなく堂々と批判して役所の改革を行っていたに違いない。そして自己の殿様風も厳しく自己批判し克服していただろう。課長は、お勢、お政、昇らと同様、半端者だったから、西欧から半端なことしか学ぶことができなかったのである。課長にとって西欧は自己を西欧流の自由主義者風に装飾する道具でしかなかった。日本には課長、お勢、お政、昇のような軽薄な人間が多数を占めており文三のような真面目な人間は少数派である。
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